「この話はすべて遠野の人佐々木鏡石君より聞きたり。昨明治四十二年の二月ごろより始めて夜分おりおり訪ね来たりこの話をせられしを筆記せしなり。鏡石君は話上手にはあらざれども誠実なる人なり。自分もまた一字一句をも加減せず感じたるままを書きたり。思うに遠野郷にはこの類の物語なお数百件あるならん。我々はより多くを聞かんことを切望す。国内の山村にして遠野よりさらに物深き所にはまた無数の山神山人の伝説あるべし。願わくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。この書のごときは陳勝呉広のみ。」
(柳田国男『遠野物語』序文より)
『遠野物語』のなにがかっこいいって、この序文につきます。
だから最初はかっこいい『遠野物語』をやりたかったんですけど、どうやら違ってきました。読むたびに姿形を変えてしまう『遠野物語』は、何だかよくわからない化物そのもののようです。
なぜ、このような不思議な本を残したのでしょう。私にはわかりません。
例えば、うちのおばあさんはよく死者に語りかけます。仏壇の前で普通に話しかけます。それは誰に届ける言葉なのでしょうか。
例えば、私が人前で話す時、話したいことの本質が相手に伝わっていない時っていうのはすぐにわかります。そういう時、私の言葉は誰に向けての言葉になってしまうのでしょうか。
しゃべってもしゃべっても言葉がとどかない、受け取ってもらえない、しゃべらないことさえ伝わらない、そんな絶望がそこにはないでしょうか。
(国会中継を見てる時もそんなことを思います。多分政治家さんらはそういう絶望を知っているから、ああなるのだろうな。とか。)
それでも話さなければいけません。語らねばなりません。そうじゃないと、生きている気がしないから。そういうのが、『遠野物語』にはぎゅっとつまっているような気がしています。
といっても、私の感じているこんなのはきっと一ミリも伝わらないので、柳田翁にならって、ちょっとかっこつけてやってみようかと思っています。それでもって、別に伝わらなくてもいいって感じまで、かっこつけられればいいなと思います。
しかし、それには私だけの力では及ばず、結構沢山の力が必要で、遠野周辺、遠野物語周辺の人々の力を借りることにしました。ちょっと力強すぎて、今のところ焦っていますが、たぶん、先人たちは優しく見守ってくれることでしょう。いや、それどころかきっと歯牙にもかけないでしょうから、やはり、好き勝手にやってみることにします。
それでは。生きている方も、死んでいる方も、どうぞよろしくお願いいたします。
「街頭に佇てばあまりに騒がしい。
あすの日もないように、なにをあせり
何を騒ぐのでしょう。おいでなさい。
その騒々しさからそっとのがれて
心おきなく語ろうではありませんか。
語る人の目はほがらかです。
聞く人の心はなごやかです。
胸と心はおのずからとけて
春も、夏も、秋も、冬も、
静かに流れて行くでしょう。」
(佐々木喜善 『東奥異聞』序文より)
作・演出 金谷奈緒
青山ねりもの協会第十一回公演『遠野物語 ―super IHATOV remix!!!―』は、第二回空間演劇祭に参加しています。
- 原作
- 柳田国男著『遠野物語』
- 作・演出
- 金谷奈緒
- 出演
-
平澤 萌花(青山ねりもの協会)
佐々木 明奈(青山ねりもの協会)
乙倉 遥(演劇集団 円)
磯谷 雪裕
木原 真一(株式会社タイガーピット・エンターテインメント)
救仁郷 将志
黒川 岬(株式会社タイガーピット・エンターテインメント)
千葉 恵佑(ひるくらいむノ快車)
渡邊 晴樹
- フライヤーデザイン
- 千葉 勇佑(千葉勇佑デザイン研究所)
- 制作
-
佐藤弥生
稲葉智己
公演日時
13:00 | 14:30 | 17:00 | 19:30 | |
---|---|---|---|---|
8月26日(水) | ||||
8月27日(木) | ||||
8月28日(金) | ||||
8月29日(土) | ||||
8月30日(日) |
会場
- 荻窪小劇場
-
〒167-0051 東京都杉並区荻窪3-47-18第五野村ビル1F
TEL 03-5356-8310(事務所)
(JR荻窪駅・東京メトロ丸の内線南口出口より徒歩10分)